フォーラムの概要を簡単にレポートします。内容は受講した内容のメモです。よって参考情報としてお読みください。
1血液と血液がん
1)疾病の基本概念と血液がん治療の現状
血液の成分は赤血球と白血球と血小板とからなっている(約45%)。残り約55%は液体成分である血漿(けっしょう)からなっています。白血球は体内に入った細菌や異物を処理し、体を守るはたらきをします。人間の細胞の中でがん化しないのは髪の毛と詰めの先だと言われています。もとになる細胞、すなわち血球系細胞に分化可能な細胞は造血幹細胞と言われています。この造血のどの過程でがん化するかによって病状が分かれてきます。多能性幹細胞レベルのがん化が慢性骨髄性白血病です。
G-CSFは白血球を増加させる働きがあります。
CMLの標準治療は「魔法(ルビー)の弾丸」と言われているグリベック服用です。どうして魔法の弾丸と言われるかというと、まずは生存率が飛躍的に向上したこと(約93%)、経口薬ということでQOLが高まったとう理由からです。この結果CML患者の移植は激減し、秋田でもこの4年で1名でした。
治験とは薬事法の承認を得るための臨床試験です。メリットは従来の薬より効果の得られる結果が得られるかもしれないということです。しかし、デメリットもあり時によっては効果が得られなっかったり思わぬ副作用を生じることもあります。
2.血液がんの治療
■分子標的薬の基本理解
1.がんとは何か?
CMLの自然経過は慢性期-移行期-急性転化というプロセスを進みます。染色体と遺伝子:細胞一つは48冊の辞典で出来ています。このうち一つが破れたり、場所が入れ替わったりするとガン化することになります。9-22の辞書が入れ替わるとフィラデルフィア染色体が出来ます=CMLこの遺伝子から作られるBcr-albチロシンキナーゼによって、止まらない細胞増殖が起きてしまいます。
2.分子標的薬は、、、
グリベックはこのbcr-abl遺伝子に鍵と鍵穴の関係でくっついて、細胞増殖を抑制する働きをします。"魔法の弾丸"と言われています。ちなみに抗がん剤は原子爆弾に例えられます。
CMLの治療の歴史
ハイドロキシウレア>インターフェロンα>移植>グリベック
グリベックを飲めばCMLによる死亡はごくわずか(8年で93%生存)ですが、グリベックを飲み続けられる人は約60%です。
3.グリベック投与期間と治療効果
6-7年での結果は以下のようです。
60% optimal response
20% suboptimal response
20% failure
4:今後の課題
グリベックを続けられない比率、その40%になる原因は、、、コンプライアンスの低下、染色体の変容、その他という結果が出ています。新しい薬も出て来ました。第二世代TKIの使い分け(ニロチニブ、ダザチニブ)をして、グリベックでoptimal response以外の患者さんにも、治療が出来るように血液内科医は努力しています。
■移植療法の基本理解
・移植療法は血液がん治療の最終兵器に例えられるような治療です。
・造血肝細胞移植は造血肝細胞=血液の種を植え付ける治療です。
・移植療法は一般的な化学療法で治らなかった場合に適応になり、移植前治療(大量抗がん剤と
全身放射線照射)を行った後に造血肝細胞移植を行い、造血再構築を行います。
・ドナーによる移植の分類
@
自家家移植・・自分の幹細胞を移植します。
A同種移植・・家族やボランティアドナーの幹細胞を移植します。
(同種移植ではTリンパ球による同種免疫効果を得られる)
・移植片による分類
@骨髄移植・・全身麻酔で腸骨から骨髄を採取
A末梢血幹細胞移植・・薬を投与し増やした幹細胞を採取
A
帯血移植・・へその緒から幹細胞を採取
非血縁者間の移植では骨髄移植と同じくらいの頻度まで臍帯血移植が増えています。
・同種免疫効果とは自家移植では化学療法で残った腫瘍も味方(自己)と認識されてしま
い排除できないが、同種移植では残った腫瘍はドナー血液には敵(非自己)と認識され排除されるという効果があります
・最近の移植件数 3500〜4000件/年(同種移植が約2200件、残りが自家移植)
・同種移植の最近
本年10月から非血縁者間でも末梢血幹細胞移植ができるようになりました。
非血縁者間骨髄移植、臍帯血移植は増加している。
・非血縁者間移植の年齢の推移
2008年では50歳台が最多と移植年齢が高齢化している(ミニ移植の普及により)
・秋田大学での骨髄移植 309例(1983年〜2010年10月)
2009年(29例)
自家末梢血幹細胞移植 33% 14例
血縁者間骨髄移植 23%
非血縁者間骨髄移植 21% 8例
血縁者間末梢血幹細胞移植 15% 3例
非血縁者間臍帯血移植 08% 4例
・フル移植とミニ移植
フル移植は骨髄破壊的移植で、強力な前治療により病気の根絶を図るが、有害事象が多いため、対象は若年・臓器障害が無い場合ミニ移植は前治療を大幅に減らす事により治療毒性の軽減を図る。フル移植と同等の免疫効果が得られ、高齢者や臓器障害でも適応となる
分科会(CML)
秋田大学医学部 講師 高橋直人先生
現在の分子標的薬イマチニブ(グリベック)からニロチニブ(タシグナ)、ダザチニブ(スプリセル)の第二世代の新薬から、第三世代のボスニチブは治験中です。他にも続々と新薬の開発が進められていることが紹介されました。
多くの患者さんが出来るだけ普通の生活をするように努力しています。
・ グリベック服用の中止2大理由としては次のような理由があります。
@
副作用の為 「不耐容」 副作用や持病を考慮し新薬への切替を検討
A
薬剤耐性化 「抵抗性」
その他に患者自身が勝手に中止するというのもあります。これには、副作用のことや経済的など様々な理由が挙げられますが、しかしきちんと服薬するかしないかはその後の予後に大きく影響している事も分かってきています。
遺伝子の置き換えは、誰でも起きていること。しかし、健康な方とCMLになる方との違いは、免疫力であり日頃から高めておくことが大事であるということです。
グリベックは口から胃に入り腸で吸収されます。門脈と言う血液から肝臓に入り、そこで代謝されます。そして胆汁に排出されます。肝臓に入った一部は血液に循環し白血病細胞に効果をもたらします。たくさんのバリアがあります。すなわち、飲んでますか、吸収できてますか(腸が正常に働いてますか)、肝臓が丈夫ですか、そして初めて血液に入ってくるのでこれを薬物動態と言います。グリベックは薬物動態が良い薬です。
薬以外に臨床的要因(ソーカルリスクスコア)というものがあります。これは病気になった時、年齢、末梢血に流れている白血病細胞のパーセンテージ、脾臓の大きさ、血小板の数の数値によって病気の程度が判断されます。これもグリベックの効き具合に影響されていると言われていす。
BCR-ABLとがん遺伝子が原因ですが、点突然変異というのが入るとグリベックが効かなくなるということも知られています。遺伝子解析で判断できます。薬が身体に入りにくいということも分かって来ました。それは血中濃度というもので判断できます。この数値が1,000を超えているかどうかが判断基準となります。日本人の約300人の調査結果をみると人により多分代謝などにより個人差があります。濃度と体重、濃度と体表面積をみると大きな幅で相関はあるがそれだけではなく、薬物トランスポータという要因があります。取り込むトランスポータ、吐き出すトランスポータがあります。濃度の違いはこのトランスポータの働きによります。これは血中濃度を測る事によって効果の度合いを判断する事もできます。
鳥海山にほぼ毎年登っています。9合目から上は突然吹雪など気候により引き返せざるを得ない事もあります。CMLの場合も多くの難関を越えてきています。治癒出来るという頂上に向かって多くの医療者が努力していますが、いろいろな工夫で頂上に立つ日が来る事を信じています。
以上